社員が生き生きと働いている企業の特徴は、「組織力」が高いことです。しかし、ほとんどの企業が、組織力の強化に課題を感じているでしょう。企業が発展していくためには、個々の力だけでは足りず、組織全体の力「組織力」が不可欠なのです。
組織力は、従業員が団結して初めて発揮される実行力のため、人同士のつながりの強さが求められます。つまり、経営者やリーダーが人をまとめていけるかどうかにも大きく左右されるでしょう。
本記事では、組織力について、経営者、責任者、一般従業員が考えるべきことは何なのかを解説します。組織力向上のために必要なことを知って、業務に役立ててください。
組織力という言葉が表す意味とは?
組織力といわれても、漠然としていてよくわからない人も多いでしょう。組織力とは、従業員が一丸となって」動くときに働く実行力のことです。また、一つの目標のもとに人々を集めて動かす能力も、組織力だといわれています。
組織と集団の違い
組織と集団という言葉は似ていますが、意味が異なるものです。組織力を正確に把握する上で、この2つの違いをしっかりと知っておくことが大切になります。
集団とは、単なる「人の集まり」のことです。必ずしも共通の目的を持っているわけではありません。
一方、組織とは、共通の目的を持った人が集まっている状態のことをいいます。お互いにコミュニケーションを取って、目的を達成しようとする集団が、組織なのです。
組織が成り立つための要件とは
組織を定義する上では、チェスター・バーナード氏が提唱した「組織の三要素」が役立ちます。組織の三要素によると、組織が成立するには「共通目的」「コミュニケーション」「貢献意識」の3つの要素が不可欠であるとされています。どれかひとつでも欠けると、バランスが取れなくなり組織が解散する可能性もあります。
共通の目的とは、組織の目標を各階層で共有し、個人が組織の目標を達成するために、自発的に行動することです。組織が成立するためには、しっかりとした旗印があることが大切なので、目標を明確にしておくとよいでしょう。
組織では、コミュニケーションを深めることも重要です。コミュニケーションが取れていない組織は成長できないでしょう。
組織力がある会社は、意思伝達や情報交換をきちんとおこない、メンバー間の意思疎通を図ることによって、共通の目的に対する理解を深めることができます。組織の目標達成に向けて、情報共有や意思伝達を円滑におこない、進むべきベクトルを合わせることは、組織成立のためには欠かせません。
組織では、貢献意欲の高さも大切になります。貢献意欲とはその名の通り、組織のために貢献したいという気持ちのことです。従業員の貢献意欲が高い組織は、組織共通の目的を達成しやすくなります。リーダーには、構成員に「組織のために働きたい」「少しでも貢献したい」と思わせるようなマネジメントをすることが求められます。
階層ごとに考えるべき責任と役割とは
組織力を強化するためには、階層ごとに考えるべき事柄が違います。階層ごとの責任や役割について詳しく見ていきましょう。
経営者に必要な責任と役割
経営者(企業のトップ)の役割は、組織の方向性を示すことです。役割としては、目標を達成した後のイメージを示し、組織に浸透させることです。会社の将来像をしっかりと見据えた上で、経営理念と方針を提示して、組織が目指すべき方向性を全従業員に示す責任があります。
経営者には、経営戦略や目標とする将来像を、社内に示し、共有していくことが求められます。
責任者に必要な責任と役割
リーダーや管理職といった責任者層には、組織の方向性を実現するために、目標や戦略を考えてマネジメントすることが求められます。年度計画を作成するなど、目標を達成するための具体的な計画を練ることも責任者の仕事です。また、責任者には計画を練ることと同時に、目標とズレていないかやきちんと実行されているかをモニタリングしていく役割もあります。
責任者には、目標を周知することからマネジメントまで、幅広い責任と役割があるといえるでしょう。
一般従業員に必要な責任と役割
マネジメントをおこなわない一般従業員の場合には、目標を達成するために、日々努力することが求められるでしょう。基本的には、共有された目標や計画に従って仕事をおこなっていきます。
一般従業員の責任は、目標達成のために日々努力したり工夫したりして仕事をこなしていくことでしょう。目の前の目標に向かって努力していくことが重要です。
一般従業員の役割もまた、会社の目標や目的の意図をしっかり受け取り行動に移していくことです。時にはヘルシーコンフリクト(健全な衝突)なども、従業員一丸となって解決策を見出すきっかけになります。
経営者が考えるべき組織力の課題とは
経営者が考えるべき組織力の課題は、いくつか挙げられます。どのような課題があるのか、詳しく解説します。
組織の明確な方向性やビジョンを示しているか?
経営者が組織力の課題を考えるとき、「組織のビジョンを示しているか」は非常に重要なポイントです。経営理念やクレド、行動指針がはっきりしていることは、組織力を高めるためには欠かせません。
「クレド」とは、経営理念よりも具体的な行動指針のことで、従業員の業務や経営判断の基準となります。クレドは、個人的な目標とは違い、企業や組織全体に共有されるのが特徴です。共有するだけが目的ではなく、従業員それぞれの行動に落とし込めるほど実践的である必要があります。
経営者が組織の方向性やビジョンを明確にすることで、責任者や一般従業員が目標に沿って、自発的に行動できるようになるでしょう。
組織の目標が具体的になっているか?
方向性やビジョンをはっきりさせた後は、到達するための目標が必要です。ビジョンや理念といった遠い将来の理想像だけを示して、ゴールに至るまでの目標がなければ、人はどのように行動したらよいのかわかりません。
そのため、方向性やビジョンを達成するために必要な目標を、具体的に掲げるようにしましょう。1年後、3年後、5年後、10年後というように、理想像に辿り着くまでの道のりを細かく分け、中長期的な目標を定めることが大切です。
教育の仕組みは整っているか?
組織力を高めるためには、教育の仕組みについてもしっかりと考えなければいけません。やるべきことがわからなければ人は動けず、失敗の恐怖から次第に自発的な行動がなくなっていきます。
また、しっかりとした教育の仕組みがないと、退職率も高まりノウハウが継承されないことも考えられるでしょう。仕事の方法はもちろんのこと、会社の理念や方向性を共有するためには、きちんと教育することが重要です。
責任者が考えるべき組織力の課題とは
責任者にとって重要な資質は、自分が動くことではなく、組織を動かす力を持っているかどうかです。責任者として組織力を高めていくためには、どのような課題と向き合えばよいのでしょうか。
PDCAを回す仕組みが定着しているか?
PDCAを回す仕組みが定着しているかどうかは、責任者としては気にしておきたいポイントです。
PDCAとは、「plan(計画)・do(実行)・check(評価)・action(改善)」の頭文字を合わせたもので、企業の業績アップや効率の良い業務をおこなうためには欠かせないものです。組織が目標を達成するためには、日次、週次、月次などでPDCAサイクルを回していくことが重要になります。
PDCAを回す仕組み自体は難しいものではありません。しかし、PDCAを回す仕組みだけを作っても機能しないこともあります。まずは、PDCAの仕組みを理解して、ひとつひとつ実践していくような教育が必要です。無理にPDCAを意識させても、うまくサイクルを回せずに成果を上げることが難しくなります。段階を踏んで、定着させていきましょう。
精神論だけで強引に組織を動かそうとしていないか?
組織力を向上させたり目標を共有して努力したりするため、時には精神論が必要です。しかし、精神論だけで強引に組織を動かすのは危険です。行き過ぎた精神論は、従業員の自発的な動きを抑制して「思考停止」をまねく可能性があります。
今までのやり方に固執して、良い方法があってもやり方を変えない、おかしいことに意見できない空気を作ってはいないか、振り返ってみましょう。思考停止状態になってしまうと、個人や組織としての成長は見込めません。組織の成長が阻まれてしまえば、事業の衰退にもつながるので、精神論だけに頼らないように心がけましょう。
経営者のビジョンを組織に共有できているか?
組織の目標を達成するためには、従業員それぞれが自発的に動くことも重要です。従業員が自発的に動けるようにするには、方向付けとして経営者のビジョンが共有できていなければいけません。
経営者やマネジメント層には、経営理念やクレドをしっかりと浸透させることが求められます。クレドを浸透させれば、主体的に行動できる従業員を育成できます。経営者のビジョンやクレドが組織内でしっかりと共有できていることが重要なポイントになるのです。
一般従業員が自発的に行動できる組織力の課題とは
一般従業員が自発的に行動できることは、悪いことではありません。しかし、一般従業員が自分のことだけを考えていては、組織としての成長は見込めないでしょう。あくまでも組織の目的に向かって自発的に行動することが重要です。
経営者のビジョンが理解できているか?
一般従業員が自発的に行動するためには、経営者のビジョンをきちんと理解できているのかどうかは、とても大切なことです。
組織には、経営者が考えるビジョンがあります。組織で働くとき、個人が好き勝手に動いていては組織力を発揮できません。従業員全員が同じ方向に向かって、努力をしていくことが求められるのです。
経営者のビジョンが理解できていなければ、同じ方向に向かえません。従業員それぞれが経営者のビジョンや方向性を理解し、向かうべき方向・指針にする必要があるのです。
組織の目標が理解できているか?
一般従業員が自発的に行動するためには、組織の目標が理解できているのかどうかも大切です。
組織には、責任者が設定した目標があるはずです。それをしっかりと理解することで、効率の良い作業ができるでしょう。目標が理解できていれば、目標達成のためのPDCAサイクルをうまく回せるようになります。PDCAがうまく回るようになれば常に改善を図ることができ、目標達成までの作業がスムーズになるのです。
また、役割分担も明確になります。目標がはっきりとわかっていれば、どのような作業が必要なのかも明確になるため、それぞれの業務を分担しやすくなります。
自分自身の行動が組織の目標達成につながるか?
責任者層が、個人の行動を組織の目標達成につなげるようにマネジメントすることも重要です。
個人を評価する上で、成績などは大きな影響があります。評価対象が個人の成績だけに絞られていると、組織の目標達成ではなく自分の成績を上げることだけに集中してしまいがちです。対策として、評価対象に組織の成績を加えるとよいでしょう。
ですが、組織の成績も評価につながるとなれば、目標を達成するために組織に貢献しようという意欲が高まります。1人の力よりも、複数人の力が同じ方向に働いた方が、何倍も大きな効果をもたらします。
目標達成のためのプロセスや組織改革につながるため、評価方法について改善することが大切です。
形だけの組織では問題解決が出来ない理由
組織力向上のためのセミナーや書籍が世間にはあふれています。しかし、組織の問題を解決できていない企業は多くあります。なぜ、問題が解決されないのでしょうか。その理由について、詳しく紹介します。
場当たり的な問題解決になっている
組織力の問題を解決できない原因は、まずは場当たり的な問題解決になっていることが挙げられます。問題が起こった際、経営課題として捉えられない企業は少なくありません。経営改善として原因を追求するのではなく、場当たり的な改善策を実施してしまうのです。
その場限りの対応では、組織力は向上しません。根本的な問題を改善しなければ、単なる対症療法に過ぎず、また同じような問題を繰り返します。
また、不適切な改善策を繰り返すことで、従業員のモチベーションが低下して、目標達成のために努力や工夫を怠ってしまうことも考えられるでしょう。場当たり的な問題解決では、成長のための効果の高い目標を設定できないといったリスクもあります。
責任と役割が明確になっていない
責任と役割が明確になっていないことも、組織の問題が解決しない一因です。責任と役割があることで、人は具体的に行動できます。責任や役割が不明確な状態が組織としての成長を阻んでいるのです。
また、その状態が長く続くことで、従業員の意識にも悪影響を与える可能性があります。責任や役割がわからないままだと、なぜ自分がここまでしなければいけないのか、本当に自分がやらなければいけない仕事なのかというような不満を抱えてしまいます。
不満を解消するためには、部署や部門ごとにするべき仕事の範囲、役割などを明確にさせて、従業員に周知させることが必要になるでしょう。
ヘルシーコンフリクトができずイノベーションが生まれない
従業員それぞれのモチベーションを高めて、より良いパフォーマンスを発揮してもらうためには「心の多様性」を受け入れ、尊重しあえる環境が非常に重要です。「心の多様性」とは、「感情」「価値観」といった人が心で感じることはそれぞれ違うものだという考え方です。
人はそれぞれ違う意見を持っているのだから、意見交換をするときでも、衝突することは当たり前であると社員のそれぞれが理解することが大切です。この考え方が浸透していれば、意見が衝突したとしても感情的にならず、冷静にそれぞれの意見を評価・検討できます。
この冷静な意見交換が「ヘルシーコンフリクト(健全な衝突)」というわけです。ヘルシーコンフリクトとは、信頼関係を前提にした対立や衝突のこと。ヘルシーコンフリクトをするには、率直な意見交換が必要ですが、感情が前面に出てくると建設的な意見であっても素直に受け入れられません。
つまりそれぞれの価値観の違いを踏まえて、お互いに意見をぶつけ合い、時には不協和音が生まれるような激しい議論をおこなうことで、組織が活性化するのです。結果的にイノベーションが生まれることもあるでしょう。
しかし、日本の企業では昔から和を重んじる傾向が強いです。そのため、従業員間で緊張感のあるような議論や対立を嫌がる人は多くいます。ヘルシーコンフリクトがおこなえないため、イノベーション創出や効果的な問題解決の取り組みが生まれないのです。
組織力の強化に必要なコミュニケーションとモチベーション
組織力に必要なものは多くありますが、もっとも重要なのはコミュニケーションとモチベーションです。組織力を高めていくためには、経営者、責任者、一般従業員が同じ方向を向き、課題をクリアしていくことが重要になります。
複数の人が同じ目標に向かって行動をしていくときには、コミュニケーションが取れていなければ、目標から外れていても修正できずに組織力を発揮できません。それぞれの階層で情報共有するには信頼関係が不可欠なので、コミュニケーションをしっかりと図ることが求められます。コミュニケーションが円滑に取れるような施策の実施が必要です。
また、目標を達成するためには、達成に向けてのモチベーションを高めることも非常に重要なポイントです。モチベーションが下がると、個々のパフォーマンスも落ち、ひいては組織の能力も上がっていきません。モチベーションを高めるためには、上司と部下のオープンな関係を構築することが大切です。
組織力の向上につながる組織づくりのポイント
組織力をアップさせていくためには、組織づくりが重要です。以下では、組織づくりのポイントについて紹介していきます。
お互いを信頼しあえる組織となること
組織は人の集まりです。組織内で個々が力を十分に発揮するためには、お互いに信頼しあえる組織を作ることがポイントになります。信頼関係がなければ、コミュニケーションはおろか目標共有もうまくいきません。お互いに信頼しあえて、企業で働く上で重要な報連相やコミュニケーションが円滑に図れるような組織を築くことが重要です。
経営者や責任者は成長のための失敗を認めること
事業活動において、失敗はつきものです。経営者や責任者は、失敗した場合にそれを受け入れることもよい組織づくりには欠かせません。失敗を過度に責めてしまうと、一般従業員は萎縮して積極的な行動ができなくなります。経営者や責任者は失敗からの学びに気づかせることに重きを置いて、個人や組織の成長を促すことが重要です。
新しいことを取り入れるための工夫をすること
組織力の向上には、新しいことを取り入れることも大切です。経営環境や市場は日々変化しているため、組織も常に進化していくことが求められます。新しいことを取り入れるための時間や工夫を惜しまないことで、イノベーションが起こる可能性を高められます。
コミュニケーション力をアップして組織力を高めよう
組織も個人も常に成長をしていくものです。しかし、時には停滞することもあるでしょう。停滞していると感じたら、どのような課題があるのか組織や個人を見つめなおすことが大切です。課題を見つけたときこそ、原点に立ち返って解決方法を探るとよいでしょう。また、コミュニケーションの向上を図るための方法を見直すことも重要です。