総務や人事、管理部の担当者にとって共通の悩みのひとつが離職率です。少子化が加速の一途をたどる日本では、企業にとって「人材の確保」がますます課題となることが予想されています。
離職率をさげるために必要な取り組みとして、「従業員満足度(ES)」の向上が重要とされています。企業で働く従業員の一人一人が、その企業の環境や仕事内容、責任について納得し、満足して働けているかどうかと判断する指標のひとつです。
言葉の意味はなんとなくわかっても、その“指標”というのは具体的にどのようなものを指すのでしょうか?「従業員の心の満足」という形のないものに対する指標。どのように捉え、どう対策を施せばいいのか、いまいち具体的なイメージが湧かず、頭を抱えている担当者も多いのではないでしょうか。
そこで、本記事では従業員満足度を向上させる取り組みとして、具体的にどのような施策をとればいいのか、事例を交えて詳しく解説。また、それをどう計測するのかについても紹介していきます。
離職率を下げたい、従業員満足度を高めたいがどのような取り組みが必要かわからない、といったお悩みを抱えている総務・管理部の方は、ぜひ最後まで目を通してくださいね。
従業員満足度(ES)ってどんなもの?基礎知識を解説
言葉を聞けばなんとなく意味は想像できるけど、具体的に何を指しているのかはぼんやりしているといった方も多いのではないでしょうか。
従業員満足度は、英語のEmployee Satisfactionの訳で、ESと略されることがあります。ちなみに、顧客満足度はCustomer Satisfactionの訳であり、CSと言われます。
顧客満足度は昔からビジネスの成功のために注視すべき指標として一般的でしたが、今や見るべきはそれだけでなく、企業の持続性を担保するために従業員がその企業に対して満足しているかという点も重要、という考えが一般的になりつつあります。
従業員満足度を上げる効果
従業員満足度が向上すると、企業にとってもメリットがあります。では、どのようなメリットが考えられるのでしょうか。
従業員のモチベーション・生産性が向上する
従業員のモチベーションがあがると、自律して働くようになり高い集中力やパフォーマンスが期待できます。
従業員が自ら積極的に仕事に取り組むことで、生産性があがるという好循環が期待できるでしょう。また、自発的にチームワークを発揮する状態のため、組織としても高い生産性が期待できます
全ての従業員の定着率が上がる
従業員満足度が高い企業は、従業員が働き続けたいと思う環境が整っているため、全ての人材が定着しやすくなります。その結果、企業のサービス向上にもつながり、業績アップが期待できます。
一方、従業員がすぐにやめてしまう企業では、採用に大きなコストがかかっているもの。さらに教育しても結局すぐにやめてしまうため、教育コストも負担になっています。従業員満足度をあげることで優秀な人材が定着してくれれば、これらのコストを抑えることができ、資金を事業や人に投資することが可能になるのです。
顧客満足度が上がり、企業利益に繋がる
冒頭でもお伝えした従業員満足度(ES)と顧客満足度(CS)には、とても深い関係があります。
従業員の満足度があがると、前述のとおりモチベーションアップや優秀な人材の定着が期待できます。その結果、顧客に提供するサービスの向上が期待でき、顧客満足度があがるのです。顧客がサービスに満足してくれれば、口コミや紹介などでさらに業績が上がるでしょう。また、顧客がサービスをリピートしてくれるため安定した業績が見込めるようになります。
実はこの一連の流れは、サービスプロフィットチェーン(SPC)という概念として、1994年にハーバード・ビジネススクールのヘスケット教授・サッサー教授らによっても提唱されています。
従業員満足度が高いケース
従業員満足度が高い会社では、従業員は前向きな気持ちで仕事に取り組むことができるでしょう。その結果、チームとしてのパフォーマンスが上がり、生産性が向上していきます。協力して効率的に業務に取り組むことができれば、カスタマーサービスの質も向上します。顧客への真摯な対応は、顧客満足度が高まることにも良い影響を与えます。
優秀な社員が定着することにもつながるため、社員教育のコストが削減できるだけでなく、ノウハウが蓄積することで従業員が成長するスピードも速くなるでしょう。また、従業員満足度が高い場合、会社に対する忠誠心も高まることも見逃せません。
従業員満足度が低い職場で起こること
では、従業員満足度が低い職場ではどのようなことが起こるのでしょうか。まず、そのような職場ではコミュニケーションが積極的に行なわれません。その結果、職場に活気がなくなり、愚痴や不満が増えやすくなるという悪循環につながります。
コミュニケーションが希薄になった職場では、従業員は視野が狭くなり、自分の業務にしか関心を持たなくなる傾向にあります。そのような環境では、事業拡大のために新しい業務が増える場合などでも、従業員は自分の業務が増える負担感ばかりに目が行きがちに。ますます職場に不満が募りやすい状態になります。
また、業務改善などにも意識が向かないため、むだな会議や非効率的な業務に気がついてもそのまま放置されるケースも。それらが企業の生産性低下につながり、業績に影響するのはいうまでもありません。
従業員満足度を左右する要因は?
従業員満足度(ES)に影響を与える可能性のある2つの要因についてご説明します。その2つの要因とは、満足度を強化する「動機づけ要因」と、不満足度を強化する「衛生要因」です。
満足度を向上させるだけでなく、不満を減らさない限り、従業員満足度は向上しません。それぞれどのような要素があるのか、ご紹介します。
動機づけ要因:従業員の「満足」に関わる要因
動機づけ要因は、一般的に「やりがい」「働きがい」と言われる領域です。
仕事の達成感・周囲からの承認・仕事そのものに対する興味・与えられた責任と権限・昇進・成長などがあげられますが、充実によって、満足度を向上させる要因として考えられています。
例えば、理念やミッションについてなんのためにやっているのか、仕事そのものに対する興味や、成長意欲の情勢などがこれに当たります。一時期、日本でも国が主導してやりがいの向上に取り組んでいた分野です。
衛生要因:従業員の「不満足」に関わる要因
衛生要因は『心理的安全性』にも関わる、不満足に関連する要因です。
「報酬水準」「福利厚生」「組織風土」「経営方針」「対人関係」などで構成されます。従業員が最低限働くために満足するための土台を整えるための取り組みです。働く環境や給与条件、人間関係など、不十分であると人が不満足に感じてしまうものです。
退職理由が衛生要因に該当するところを見ても、人手不足の問題が衛生要因による不満足と密接に関わっていることは明らかです。
従業員満足度調査・アンケートで分析する
従業員満足度調査の際、現状を把握したのはいいけど、そこからどう動き出せばいいのかわからず、具体的な施策の実行までいたらない企業も多いものです。
従業員満足度を調査したら、その次にどう動き出すのかが重要です。取り組む際に重要なポイントをご紹介します。
従業員満足度を調べると、何がわかるの?
具体的な調に入る前に、結果としてどのようなものが得られるのか考えてみましょう。下記のような例が挙げられます。
- 経営層の評価:企業理念の浸透度合いはどうか、適切な情報開示がなされているか、組織風土はどうか
- 制度の評価:評価は適当か、給料に満足しているか、成長の機会を与えられているか
- 仕事への満足度:仕事に意義ややりがいはあるか、仕事の負荷は適切か、成長実感があるか
- 上司の評価:上司のマネジメントについてどう感じているか、相談しやすい雰囲気があるか
- 職場の状態:目標やその設定背景は共有されているか、自部署の状態は良好か、他の部署との適切なつながりはあるか、コミュニケーションは機能しているか、職場のルールに不満はないか
- 福利厚生の充足度:職場環境に満足しているか、福利厚生に満足しているか
このように、従業員満足度を調査することは、定量的な結果を把握するだけに留まらず、取り組むべき経営課題や組織課題についても把握することができます。
総務や人事だけでなく、経営陣も一丸となって取り組むべき施策といえます。
従業員満足度調査・アンケートの実施
従業員満足度調査は、アンケート形式を採用するのが一般的です。アンケートでは、会社全体、事業部レベル、各部署レベル、個人レベルのそれぞれで、事業運営や組織運営にかかわる方針、制度、実行施策についての設問をしていきます。
重要なのは、如何に従業員から本音の意見を引き出すことができるかです。上辺だけのアンケートをとっても、従業員にとっては何のメリットもないアンケートであり、極論で言えば時間の無駄になってしまいます。
具体的な意見を引き出すために、例えば無記名方式のアンケートにするなどの配慮を行った上で作成するようにしてください。
調査の次のアクションが大事!PDCAサイクルを回そう
実際に従業員満足度を調査しても、それだけで組織が良くなるわけではありません。顕在化した問題に対してアクションし、PDCAサイクルをまわすことが重要です。
ワークライフバランスという言葉が流行している中で、より働きやすい環境を整えるためにも、従業員満足度調査をいかに活用できるかが問われます。まずは、行った調査をしっかりと分析することが重要です。
調査を行なった結果、どの項目で評価が高く、どの項目で評価が低いのか明確にしましょう。それらは対象の部署や職位など、セグメントを分けても見ていく必要があります。また、項目の絶対値というよりは、同程度の企業規模や業界といった類似企業のデータとの相対評価の方が正しい状況の把握につながります。
こうして調査結果を見ると、現在の組織にどういった課題が顕在化しているのか、潜在的にはどんな問題がありうるのかがわかりますので、それにどういったアクションを取るのか、ということを検討します。
従業員満足度調査の結果、取り組んだアクションが果たして成果をあげたのかという観点で、調査はある一定の頻度で継続的に行うことが望ましいでしょう。
経営層を巻き込み、会社全体で取り組もう
従業員満足度調査の分析結果は、必ず経営者が目を通すべきです。従業員満足度調査は、主に企業の人事部門が中心となり行うケースがほとんどですが、その部門だけで完結しては意味がありません。いかに経営層にその事実を把握させ、次のアクションにつなげるかが、従業員満足度向上のポイントとなります。
会社の制度に関わる問題の場合は、経営者の判断も必要になりますし、明確になった課題の改善をやりきることも重要です。そのためにも経営層を巻き込んだ動きが必要となるのです。実際に改善にまでつながらないと、社員側のモチベーションの低下や、適切に意見を出す社員が減るなどの悪影響を及ぼします。
一般的に従業員満足度調査は設問数が多く、調査に協力するだけでも時間的な負担を従業員に強いています。その状態で、調査結果が何のアクションにも繋がらなかったら、今後の調査を実施することに対して抵抗感が生まれてしまい、悪循環に陥ってしまいます。くれぐれも改善活動をおろそかにしないようにしましょう。
従業員満足度向上の取り組みポイント
従業員満足度をアンケートで調査し、課題を把握したら、次は従業員満足度を向上させる取り組みとして、具体的な施策をたてていきます。具体的には、どんな施策を用意すれば満足度を向上させることが出来るのでしょうか。施策を計画する際のポイントを紹介します。
経営のビジョンを共有する
経営陣と現場社員の意識に食い違いが発生することはよくある事態。経営陣の思想がうまく伝わっていないと、どんな施策を施そうとしても社員が「振り回されている」と感じてしまうと、不満がつのってしまうことになりかねません。経営陣が見ている方向性は社員に共有できているでしょうか。
目につくところにスローガンを貼る、クレドカードを配布する、社内報を作るなどして、企業のビジョンと社員個人との目標が一致するように配慮しましょう。自分の仕事が経営にかかわっているという意識を持つことで使命感が生まれ、仕事に対するやりがいもアップします。
社員の意見を積極的に取り入れる
社員の意見を上層部が積極的に採用することで、社員の参画意識を促すことができます。定期的に意識調査を行ったり、上層部との面談を設定して、そこで上がった意見を積極的に取り入れる姿勢をしめすとよいでしょう。
従業員満足度を向上させる取り組みとして、コンテストを開催したり、意見を出した社員にインセンティブを出すなど、制度として確立している会社もあるようです。
目標は数値化・具現化する
個人の目標も数値化したり、明確な指標を立てて設定することで、正当な評価を受けやすくなります。その結果、社員のモチベーションの向上が期待できます。
特に日本企業は年功序列の考えがまだまだ色濃く、頑張りが正当に評価されないことに不満を抱く若手社員が多いといわれています。総務などの目標が数値化しづらい職種でも、「離職率○%削減」といった形で数値化することが望ましいです。
部署外の社員との繋がりを促進する
会社のデスクで仕事をしていると、どうしても同じ部署内やデスクの近い社員とだけコミュニケーションをとりがちです。しかし、一緒に仕事をしている上司や同僚には仕事の悩みを打ち明けづらく、余計に不満が溜まってしまうことが懸念されます。
そこで、従業員満足度を向上させる取り組みとして、社員食堂やフリースペースを新設して、部署外の社員とのコミュニケーションを促進している企業があります。社員参加のイベントを企画したり、社外活動に補助金を出したりといった手段も効果的です。
福利厚生を充実させる
福利厚生を充実させることは従業員にとって目に見える利益があり、端的に従業員満足度を向上させる取り組みとして一番効果あるといえるでしょう。
福利厚生の中でも人気があると言われているのが「住宅・家賃補助」そして「食堂・昼食補助」です。衣食住に直結する手当をもらえることは、やはり社員としては最も満足感を感じられますよね。担当者や経営陣としては予算に頭を悩ませるところかと思いますが、最近は便利な外部サービスもたくさんあります。会社の規模や条件に合わせた施策をとるようにしましょう。
労働条件や労働環境を見直す
給与や労働時間など、労働条件に関する不満はないかについても見直していきましょう。
満足できる給与額については一概に言えるものではなく、従業員が納得できるかがポイントになります。個々の能力や働きに見合った額であること、どうすれば目標額になるのかを従業員が納得していることが大切です。
労働時間については、無駄な残業などがないかを見直し削減していくことが従業員満足度の向上につながるでしょう。たとえば、残業をしない日を設け日中に集中して仕事を終える、といった工夫が必要です。
また職場環境を整備することも大切です。整理整頓が行き届いた職場では書類を探す時間なども削減でき、結果として労働条件への満足度が上がります。
従業員満足度を向上させた成功事例3選
株式会社Speee|「お昼寝」を公認して生産性アップ
お昼寝公認を謳うSpeeeでは、従業員満足度を向上させる取り組みとして、各フロアに「仮眠・集中スペース」が設置されています。
ソファが置いてあったり、モニタをつなげるスペースがあったり、さらには雑魚寝スペースまであり漫画喫茶のような雰囲気だそう。利用用途は特に限定されておらず、時間制限もないため、休憩や仮眠だけでなく、体調が悪いとき横になりながら仕事したり、企画書などを持ち込んでガッツリ仕事に打ち込んだりする社員もいるようです。
社員が思い思いに使えるスペースがあることが安心感に繋がり、逆に思いっきり仕事に打ち込むことができているといいます。インフラや職場環境を整えることの重要性を感じる事例です。
(参照:株式会社角川アスキー総合研究所「私たちの働き方カタログ 第25回 〜 性善説から考えるSpeeeの社内環境作り お昼寝も集中作業もできる専用スペースを社内に設けてみたら
(https://ascii.jp/elem/000/001/697/1697533/)」『ASCII Team Leaders』、記事更新日:2018/06/27、参照日:2023/11/27)
株式会社ディー・エヌ・エー |上司の承認なしで人事異動ができる
株式会社ディー・エヌ・エー(以下、DeNA)では、直属の上司の承認なしに人事異動ができる「シェイクハンズ制度」が導入されています。もっと詳しくお伝えすると、移動先部署と本人が合意すれば、他部署へ異動することができるのです。
この制度が導入されるまでは、月に1回「キャリアマネジメントアンケート」が実施されていました。その中の問いで、「自分の力を最大限発揮できているか」という質問に対し、高いスコアをつけているメンバーは約60%という結果でした。
つまり、残りの約40%の従業員は、まだ力を持て余しているという状態だったのです。「その従業員に、もっと自分の力を発揮できる場所を見つけて活躍してもらう方法」を考えたときに生まれたのが、シェイクハンズ制度です。
この制度が導入されてから、従業員は自分の強みややりたいことを考える人が増え、マネジメント層もより熱意を持って自部門の業務を発信するようになったそうです。また保守的な見方として、やりたいことを見つけたら社内で異動ができるため、離職率の低下にもつながる制度です。
(参照:jinjer株式会社「「マネージャーの意識が変わった」DeNA人事制度シェイクハンズ|運用から1年経った感触を聞いてみた(https://hrnote.jp/contents/b-contents-composition-denashakehands-180917/)」『HR NOTE|人事の成長から、企業の成長を応援するメディア』、記事更新日:2023/10/04、参照日:2023/11/27)
サイボウズ株式会社|多様な働き方が認められる
サイボウズ株式会社はグループウェアビジネスを展開するIT企業です。2005年には離職率が約28%もありましたが、2020年11月には4%にまで低下しています。
その理由は、100人いれば100通りの働き方があっていいという「働き方改革」が起こったこと。サイボウズではリモートワークや週3勤務、時短勤務が認められています。従業員1人1人が実現したい働き方を尊重することで、従業員満足度が上がり、大幅に離職率を下げることに成功しました。
(参照:株式会社講談社「『サイボウズ』は社員満足度の高い「働き方改革」をなぜ作れたのか(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/67235)」『マネー現代』、記事更新日:2019/10/03、参照日:2023/11/27)
(参照:Unipos株式会社「離職率28%から4%へ サイボウズはいかにして“共創する組織”をつくり上げたのか(https://media.unipos.me/cybozu_20201126)」『HRコラム』、記事更新日:2023/07/03、参照日:2023/11/27)
従業員満足度を向上させ、組織の生産性を最大化しよう
一口に、従業員満足度を高める取り組みといっても、企業が抱えている課題や確保できるリソースによって様々です。画一的な正解がないからこそ、担当者は腕の見せ所といえますが、頭を抱えてしまいますよね。
何よりも、まずは調査と分析を行ない、現状の課題を正確に把握することが重要です。その結果とリソースを照らし合わせて、御社にとって最適な施策をとるようにしていきましょう。
社内で足りないリソースは、外部サービスを使って補うのも一手です。最近は総務や人事担当者をフォローする便利なサービスもたくさん出てきています。予算と相談しながら、それらも上手に活用していってくださいね。